2025年11月28日、Code for Japan Summit 2025の前夜祭として、「Decidim Fest 2025 報告会」が開催されました。
Decidim Festは、毎年11月にスペイン・バルセロナで開催される、デジタル民主主義プラットフォーム「Decidim」の国際カンファレンスです。
今年の「Decidim Fest 2025」には、Code for Japanのメンバー3名(東さん、明主さん、上東さん)が参加しました。EU圏では現在、「デジタル・ソブリンティ(デジタル主権)」や「自分たちでコントロールできる技術を使おう」という議論が加速しています。
現地での登壇内容と、世界から受けた刺激について報告が行われた前夜祭の様子をレポートします。
🇯🇵 世界が注目した「日本からの技術的貢献」
東さんが登壇したのは、イベント2日目のキーノート後に行われた「Decidim Stories」というセッション。加古川市長によるビデオメッセージに続いて加古川市の事例を紹介した他に、特にここで紹介したのは、バルセロナ生まれのDecidimを日本社会に実装するための「3つの技術的貢献」でした。
- デザインシステムのローカライズ 加古川市と共同で、日本のスマホ利用に最適化したUI/UXを開発・公開
- LINE連携ログイン 国民的インフラであるLINEを使ったログイン機能の実装
- AIによるクラスタリング(広聴AI) デジタル民主主義2030プロジェクトが開発している提案の文脈を可視化する技術で、Decidimにも実装できないか検証中
これらの発表に対し、現地のエンジニアや自治体関係者からはどのような反応があったのでしょうか。
東:
「君たちが何をしているのか、君たち自身の言葉で聞きたい」とお招きいただいたわけですが、特に反応が良かったポイントがありましたね。上東さん、どうでした?
上東:
やっぱり3つ目の「AIの活用」ですね。ブラジルやメキシコのエンジニアたちがすごく興味を持ってくれました。
彼らも提案のレコメンド機能などをやろうとしているんですが、「モデル自体はそれぞれを使うとしても、ビジュアライゼーション(可視化)の部分だけでも一緒にやりたいね」と、かなり話が盛り上がりました。
東:
私もセッション終了後に「実際に動いているところを見せて欲しい」と声をかけられて、じゃあってことで会場の外でデモをして「ワーオ、いいね!」と好評でした。日本独自のローカライズや技術的な工夫が、海外の課題解決にも繋がる可能性があると実感できましたね。
🌎 ユーザー160万人!ブラジルの巨大な挑戦
続いて話題は、参加メンバーが衝撃を受けたという「海外の事例」へ。特に会場をざわつかせたのが、明主さんが報告したブラジルのケースでした。
明主:
ブラジルの事例には本当に驚かされました。彼らは国単位でDecidimを活用していて、ユーザー数が160万人、提案数が2万4000件、投票数が180万件という桁違いの規模なんです。
東:
日本の自治体とは規模感が全く違いますよね。
明主:
そうなんです。だから課題も深刻で、大量の提案の中からユーザーに関係あるものを表示するために、AIを使ったクラスタリングに取り組んでいました。
あと、インフラ周りもすごかったですよね?
上東:
すごかったですね(笑)。加古川の数百倍のコストがかかっている規模感でした。
基本は国のインフラに乗せて、足りない分をAWSなどの外部サービスで補う構成で、エンジニアとしては「触ってみたいな」と思うようなリッチな環境で負荷対策をしていました。
💡 OSSのガバナンスと「GAFAM依存」への問い
イベント全体を通して議論の核となっていたのは、「技術」そのものよりも、それをどう管理・運営していくかという「ガバナンス」の問題でした。
Decidimの運営自体も「Assembly」や「Commitee」といった分科会を用いた民主的な手法で行われていますが、そこで突きつけられたのは「GAFAMへの依存をどう減らすか」という重いテーマです。
明主:
議論の中心にあったのは、やはりGAFAM依存からの脱却です。「OSS(オープンソースソフトウェア)がその代替になるのか?」という話の中で、OSS特有の「分断化(フラグメンテーション)」の問題や、誰がどう意思決定をするのかというガバナンスの難しさについて、かなりシビアな議論が交わされていました。
東:
「理想」と「現実」の間でどうバランスを取るか、という点ですね。
明主:
はい。Decidim自体も、技術的負債を解消するために機能を削ぎ落とし、悲願の「バージョン1.0」を目指すフェーズにあります。持続可能な開発体制をどう作るか、世界中が同じ悩みを抱えていると感じました。
🗣️ 会場Q&A:日本で「デジタル民主主義」は根付くか
報告会の後半では、前夜祭参加者からの質問を受け付けました。
──(会場)ブラジルの事例で、AIでクラスタリングすると個人の嗜好が特定されてしまう懸念はないのでしょうか?
明主:
ブラジルでは「データは国のセンターで管理する」という形で主権を守ろうとしています。また、そもそもDecidimは「公に意見を表明する場」なので、AIによるクラスタリングは個人の特定というより、「議論のトレンドを可視化する」目的で使われています。欧州や南米は、日本以上にデータ主権への意識が高いと感じました。
──(会場)加古川市では長期的なプロジェクトが続いていますが、なぜ担当が変わっても継続できるのでしょうか?
東:
やはり市長のリーダーシップが大きいですが、それだけではなく「コミュニティ」の存在が重要です。
システムを入れただけでは使われません。加古川では、かつてワークショップに参加した高校生が、大学生になってまた戻ってくるといったサイクルが生まれています。そうした「人」がいることが継続の理由だと思います。
──(会場)なぜDecidimは成功しているのでしょうか?
明主:
ラテンアメリカの方々と話して感じたのは、政府への不信感からくる「自分たちで民主主義を作るんだ」という強い当事者意識です。行政もそれに応えて場所を提供している。
東:
日本の場合、コロナ禍でのオンラインツールとして広まった側面があります。正直、日本でDecidimが「成功した」と言えるかというと、まだ課題は多いです。市民の声が本当に届いているのか、という点はこれからも問われていくと思います。
上東:
僕もまだ「成立している」とは思っていません。地元でも知らない人は多いですし。だからこそ、Code for Japanとしてもっと泥臭く広げていく必要があると思っています。
🖊️ 編集後記:バルセロナの空気とこれから
報告会の最後には、バルセロナでの美食レポートや、帰路の飛行機トラブル(!)などの「珍道中」エピソードも披露され、会場は和やかな雰囲気に包まれました。
また、会場ではおなじみグラレコも入っていただいて雰囲気を記録いただきました。
世界中の開発者や実践者が集い、悩みや知見を共有する「Decidim Fest」。
日本からも継続的に顔を出し、世界のコミュニティと繋がり続けることの重要性を強く感じる報告会となりました。Code for Japan Summit 2025のメインテーマの1つにもなった「デジタル民主主義」の議論は、さらに深められていくことでしょう。

