熊本地震では発災から24時間以内に付いたXのコミュニティノートの15%近くが公開されたのに対し、沖縄県知事選挙では告示から投開票前日までの356件のうち、公開されたのはわずか2件(0.6%)でした。YouTubeでは、立場が対極にある2つのチャンネルが1つの出来事を正反対の物語に仕立て、その動画が短く切り抜かれてTikTokへ広がっていました。ゲストの藤代裕之さん(法政大学教授)は、災害でも選挙でも、こうした話題を広めるのはいつもほぼ同じアカウントだと指摘し、そのアカウントにどう向き合うかが議論の焦点になりました。
2026年10月13日、Code for JapanとSEARCHLIGHT株式会社が運営する勉強会「ナラティブ観測所」で、7月末の熊本地震と9月13日投開票の沖縄県知事選挙をめぐる観測結果を共有しました。藤代さんと陣内(Code for Japan)によるXのコミュニティノートの共同分析と、瀬戸さん(SEARCHLIGHT)によるYouTubeやTikTokなどの分析の2本の報告です。
登壇者
- 藤代裕之(法政大学社会学部メディア社会学科教授。元徳島新聞記者。著書に『フェイクニュースの生態系』など)
- 陣内一樹(Code for Japan副代表理事)
- 瀬戸亮(株式会社SEARCHLIGHT代表取締役)
公開されないままのコミュニティノート
コミュニティノートは、X上の投稿に利用者が補足説明(ノート)を付けられる仕組みです。立場の異なる複数の利用者から「役に立つ」と評価されて、初めて公開され、投稿の下に表示されます。評価が揃わなければ「評価中」のまま残り、作られてから2週間たつと評価の結果が確定し、その後に公開されることはありません。
熊本地震の発災から1カ月に付いたノートのうち、内容を判定できた1,607件で公開されたのは9.1%で、昨年の参議院選挙(13.6%)と今年の衆議院選挙(2.1%)の間でした。一方、沖縄県知事選挙の公開率は0.6%で、公開が0件だった兵庫県知事選挙とほぼ同じ水準です。沖縄のノートの9割以上は、評価中のまま、公開されないことが確定しました。
災害の投稿に現れた政治と排外、AIで作られた画像
約2,000件の投稿を目視で確かめた藤代さんによると、熊本地震では、救助や被害をめぐる偽情報とは別に、避難所の対応を政権の責任に結び付ける投稿や、募金への不信、炊き出しをめぐる排外的な言説が、支援や避難の話題と一緒に現れていました。
藤代さんは、生成AIで作られた画像や動画の問題も挙げました。熊本地震では「AIで作られた画像だ」とするノートが付いた画像が実は本物だった例があり、沖縄県知事選挙では、AIで作ったポスターや動画で陣営の支持者どうしが攻撃し合っていました。
切り抜きで広がる正反対の物語
瀬戸さんは、熊本地震で「外国人が盗んだ」という物語ができていく過程を示しました。真偽は分からないと前置きして窃盗への警戒を呼びかける投稿と、他県の警察による警戒の呼びかけという別々の事実が結び付けられ、1つの物語になっていきました。投稿一つひとつの真偽を確かめるだけでは捉えられない例です。
沖縄県知事選挙では、立場が対極にある2つのYouTubeチャンネルが、下地幹郎氏の立候補取りやめという同じ出来事を、一方は現県政への批判に、もう一方は下地氏の言動の不一致の問題に結び付けていました。一方のチャンネルの動画は16本中8本が、タイトルを変えないままTikTokへ切り抜かれて転載されていました。瀬戸さんは、長い物語を短く分けて配り直すこの流れを「ナラティブのモジュール化」と呼び、主語や仮想敵、結論がはっきりした動画ほど切り抜かれやすいのではないかと見ています。
議論:繰り返し現れるアカウントへの向き合い方
藤代さんは、ノートが何度も公開されたアカウントの収益化を止めるといった、利用者の集合知にもとづく方法なら納得を得やすいのではないかと提案しました。同時に、ノートが多く付くのは特定の立場のアカウントに限らないとして、好きな勢力は認め、嫌いな勢力だけを止める二重基準にならないよう、慎重な議論が要るとも述べています。
ノートの使い道も話題になりました。沖縄で公開されたノートの1件は、日本ファクトチェックセンターの検証記事を根拠にしており、元の投稿はその後削除されました。藤代さんは、報道やファクトチェックとノートが補い合う良い例だとしています。公開されないノートも、何が争点になり、どの情報が足りないかを示す手がかりとして、報道機関が論点を選んだり、支援団体が寄付の使い道を説明したりするときに役立つと指摘しました。
参加にご興味のある方へ
今回の分析はいずれも速報で、両者とも観測を続けます。ナラティブ観測所は、点がつながってできる物語(ナラティブ)の広がりを、プラットフォームを横断して観測する招待制のコミュニティです。勉強会では、公開の記事には書けないアカウント単位の分析も共有しています。関心をお持ちの報道関係者・研究者の方は、以下のフォームよりご連絡ください。
問い合わせフォーム:https://forms.gle/zDAe4M2jhbFzJ4SGA
ナラティブ観測所について:https://www.code4japan.org/news/narrative-observation-has-started
