AI-readyな自治体の働き方とは(公共ナレッジエンジニアリング開発室)

2026.09.18 | 活動レポート

AI-readyな自治体の働き方とは

AIは、自治体の働き方をどう変えるのか。

先日Code for Japanが開いた勉強会で語られたのは、ツールの使い方やAIの活用法の前にある「これからの自治体職員はどうあるべきか」という、もっと根本的な問いでした。講師は、鹿児島県肝付町役場職員として15年情報政策担当を務めた経験のある中窪です。話題の中心にあったのが、ゼロトラストとGoogle Workspaceという二つのキーワードです。

この記事では、自治体職員の働き方が「AI-ready」「ゼロトラスト」でどのように変わるのかをお届けします。

そもそも「AI-ready」「ゼロトラスト」とは何か

本題に入る前に、記事の土台となる「AI-ready」と「ゼロトラスト」という二つの言葉を整理しておきます。

AI-readyとは、AIを導入すること自体ではなく、AIの活用を前提に業務や組織のあり方を見直せている状態を指す言葉です。背景にあるのは、人口減少に伴う人手不足の深刻化です。国も2025年5月に「AI基本法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)を成立させ、デジタル庁は生成AI利用環境「源内」の整備など「ガバメントAI」の実現に動き出しました。米国・中国・英国がAIの国家戦略を相次いで打ち出す中、自治体にとってもAIをどう業務に組み込むかは避けて通れない論点になりつつあります。

もう一つの鍵となるのがゼロトラストです。ゼロトラストとは、「庁内ネットワークの内側は安全」という従来の境界型セキュリティの考え方から離れ、誰が・どこから・何にアクセスする場合でも、その都度検証するという情報セキュリティの考え方です。全国の自治体では、2015年の日本年金機構における情報漏えい事故をきっかけに、総務省の指導のもとネットワークを「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の3系統に分ける「三層分離」が導入されました。しかしクラウドサービスの普及やテレワークの広がりにより、用途ごとに端末を使い分けるこの運用が、業務効率を下げる要因にもなってきました。デジタル庁は近年、この三層分離を見直し、ゼロトラストアーキテクチャへの移行という方針を打ち出しています。

AI-readyな状態を目指し、ゼロトラストの考え方を備えることで、自治体職員の働き方はどう変わっていくのか。ここからは、勉強会の内容に沿って見ていきます。

「効率化」の話をする前に問い直すべきこと

中窪が最初に投げかけたのは、こんな問いでした。

あなたの職場の働き方は、何によって規定されていますか?

就業規則?予算?上司の方針?どれも正解ですが、中窪はもっと大きな二つの流れを示しました。一つは「地方分権改革」、もう一つは「デジタル社会への移行」です。

地方分権改革は、国と地方の関係を「上下・主従」から「対等・協力」へと転換する動きでした。当初の目的は統治構造の刷新でしたが、急激な人口減少を受けて、その狙いは自治体の「自立」から「存続」へと書き換えられ、今は住民自身が地域に関わる「住民自治の質的な問い直し」へと重心が移っています。

もう一つのデジタル社会への移行では、インターネットアクセスの普及を背景に、ハード整備中心(2001年、e-Japan戦略)から、データの安全な利活用(2021年、デジタル社会形成基本法)へとフェーズが進みました。コロナ禍での所謂デジタル敗戦について、中窪は「ITを社会インフラとして意識せず、単なる道具と捉え、全体の設計図を描けていなかったこと」が要因だと分析します。

意識と環境は両輪です。どちらが欠けても、DXは前に進まない。

この二つの流れが交差する先で、自治体職員はどんな姿になっていくのか。中窪は自治体戦略2040構想研究会(2018年)が示した「プラットフォームビルダー」を紹介しました。住民に直接サービスを届ける役割から、公・共・私の新しい協力関係をつくる土台へ。職員は地域資源と行政機能をつなぐ「行政API」のような役割として、庁舎の外へ飛び出すアウトリーチ型の存在になっていく——というビジョンです。

図:自治体の働き方に影響を与えている意識と環境(勉強会資料より)

ゼロトラストは「守り」ではなく「攻め」のインフラ

「地域に飛び出す」と言われても、セキュリティが心配——そんな声が聞こえてきそうです。しかし中窪の見立ては逆でした。ゼロトラストを"守りの強化"とだけ捉えると、話は「コスト」で止まります。視点を変える必要があります。

中窪が引いたのは、東京大学・熊谷晋一郎氏の言葉でした。

自立とは依存先を増やすこと

人口が減り、一つの自治体だけでは地域が回らなくなるほど、外部の力(他自治体、地元企業、住民、外部人材など)とつながる必要が出てきます。つながる相手が増えるほど、誰とでも安全に接続できる基盤が要る。それがゼロトラストです。

ここには、二つの軸があります。

  • 縦軸(ガバメント):国の関与のもとでの共通・共用化。ネットワーク設計、セキュリティ対策、システム標準化、データ主権、AIモデル作成。
  • 横軸(ガバナンス):地方分権の進化としての協働・地域連携。地域資源をつなぎ、コラボレーションの総量を増やす。

図:ゼロトラストを考える上で必要な2軸(勉強会資料より)

境界の内側だけを守る従来の発想は、裏を返せば庁舎に行かないと仕事ができない構造でもありました。ゼロトラストは、場所や所属を問わずに安全につながるための土台です。

人口減少が進むほど、外部との連携が増えるほど、セキュアに「つながれる」環境が必要になる。ゼロトラストとは、守りの出費ではなく、地域に飛び出すための攻めのインフラである。この視点は、多くの参加者にとって新鮮な気づきとなりました。

「ロックインされる」と「分かってロックインさせる」は違う

もう一つのキーワード、Google Workspaceの話になると、必ず出てくる指摘があります。

「MicrosoftからGoogleに移すだけ。結局、別のベンダー依存では?」

これに対する中窪の答えは明快でした。

ロックインされることと、ロックインさせることは違う。分かってやるのと、分かっていなくてやられているのは違う。

問題は、特定のツールを使うこと自体ではありません。気づかないうちに、データを特定の環境に縛られていることです。Code for Japanも参画したデジタル庁の検証事業では、多くの自治体が「データ」ではなく、特定のファイルやアプリといった「環境」を資産と捉えてしまい、移行が進まない実態が見えてきました。

データを環境にロックインされてはいけない

これが中窪が繰り返し強調したメッセージです。

肝付町では、地元企業と連携を試みたとき、相手も同じGoogle Workspaceを使っていたことで、チャットもファイル共有も即座に機能しました。

「同じ環境だと、物事の進みが爆速になる」

環境をそろえることは、官民連携を加速させる投資でもあったのです。将来の移行可能性を視野に入れたうえで、主体的に選び続ける。これが分かってロックインさせるということです。

「行政はAIになる」その時、職員に残る仕事は?

勉強会の締めくくりに、中窪が示したのはこんなビジョンでした。

行政は、機能と根拠を提供するAIになる

定型的な行政判断や根拠の提示はAIが担い、暗黙知の継承もルールの解説もAIが担保する。その時、職員に残るのは「住民と向き合い、地域をつなぐ仕事」です。

肝付町では、職員がコンビニエンスストアでアウトリーチ型の業務を実験しました。住民の生活の場に出向くことで偶発的な会話が生まれ、地域との新たな関係性が芽生えていく。中窪はこれを「デジタル行政のラストワンマイル」「そういえ場("そういえば"と気軽に話せる場)」と表現しました。

図:肝付町におけるコンビニでの実証実験の風景(中窪による撮影)

完璧な環境を待つ必要はない

理念だけでは前に進めません。では、何から始めればいいのか。

参加者から最も多く寄せられたのも、この問いでした。中窪の答えは、拍子抜けするほど正直なものでした。

私も最初は地方分権やゼロトラストなんて語っていなかった。端末更新・ネットワーク更新がきっかけだった。

定期的な更改のタイミングを入口にして、「なぜやるのか」という文脈を後から肉付けし、ビジョンへと昇華させていった。三層の対策(三層分離)の次のネットワーク更改を控える自治体が多い今は、まさにその入口に立っているとも言えます。

大切なのは、完璧な環境が整ってから始めることではなく、今あるきっかけから問いを立てて動き始めること。肝付町という小さな自治体で15年かけて積み上げてきた実践が示しているのは、そのシンプルな事実でした。

最後に、中窪は参加者にこう問いかけました。

AI-Ready?(AIを携えて地域に飛び出す準備はできていますか?)

AIが自治体の定型業務を担うAIエージェントの活用は、徐々に始まりつつあります。その未来から逆算したとき、いまの自分の働き方・環境・意識は、どこまで準備できているでしょうか。

全国の自治体で、同じ問いを抱えている職員がいます。一人で抱えず、まずは庁内の誰かに話してみてください。

そして、「もっと詳しく聞きたい」「自分たちの自治体でも考えてみたい」という方は、いつでもCode for Japanにご相談ください。

ともに考え、

ともにつくる。

Code for Japan Logo
Slack Notion
GitHub Youtube
Linedin

活動

© Code for Japan

情報セキュリティについてプライバシーポリシーCode of Conduct

© Code for Japan