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Code for Japanとカナダ大使館が共催で偽誤情報対策についてのイベントを開催しました。
このイベントは、カナダ・グローバル連携省 (カナダ外務省) 民主的レジリエンスおよびカナダ即応メカニズム 課長 (Director of the Democratic Resilience and Rapid Response Mechanism Division, Global Affairs Canada and the Chair of the G7 Rapid Response Mechanism)のサリュー・バブー(Saliou Babou)氏の来日に合わせて開催され、世界的に問題となっている偽情報や外国からの情報操作・干渉 (FIMI:Foreign Information Manipulation and Interference)への対策についての事例が共有されました。
加えて、日本国際問題研究所 研究員の桒原響子氏と、Code for JapanからはBirdXplorerのプロジェクトをリードする陣内さんが登壇し、パネルディスカッションが行われました。
カナダは国家主体による情報操作対策の国際的な枠組みであるG7即応メカニズム(G7 RRM)の事務局を務めています。また、カナダ国内の偽情報対策においては、政府と市民団体、民間セクターなどが一体となり取り組む「Whole of Society」のアプローチが注目を集めています。
偽情報対策においては、どの情報の真偽を誰が、どうやって判定し、発信するべきか、難しさがあります。行政のみが主導権を握るのではなく、民間セクターと市民社会との連携が求められていることがパネルでは強調されていました。
トーク「偽情報の脅威にどう立ち向かうか?カナダと日本の偽情報対策」
バブー氏からはカナダにおける外国からの干渉と情報操作に対する対応の事例が紹介がありました。
カナダでは外国からの干渉による情報操作が選挙に影響を与える可能性が懸念されています。2019年と2021年の連邦選挙では、外国からの悪意ある情報操作活動が確認されましたが、調査の結果、選挙に影響を与えるには至らなかったとされました。それでもカナダ政府は、この活動を政府やその体制に対する信頼を揺るがす脅威としてみなし、対策の強化を進めてきました。
そして2025年の選挙が公正に行われるためにどのような取り組みが行われたのかについて、事例紹介がありました。
Code for Japanの陣内さんからは、2025年の参議院選挙におけるコミュニティノートの分析について紹介しました。偽誤情報対策として、X(旧Twitter)の投稿とコミュニティノートの可視化ツールをCode for Japanでは開発しています。
カナダと比べると、日本国内ではファクトチェック団体やオープンソースツールの開発に取り組む団体が少ないことが課題です。Code for Japanは開発したツールを活用するためのイベントの開催し、エンジニアだけではなく、メディアや研究者に参加を呼びかけるなど多様なステークホルダーの巻き込みに取り組んでいます。発表では、2025年の参議院選挙でそのツールを活用しどのような分析が行われたのか、その速報を紹介しました。
桒原氏からは、外国による情報操作の脅威について、日本もその対象の例外では無いことがわかる事例が紹介されました。日本語という言語の障壁や、伝統的メディアへの高い信頼度から、日本はこれまで、外国から比較的介入されにくい情報環境にありましたが、特定のイベントに合わせた英語や中国語、さらには日本語でのナラティブの発信など、外国のアクターによるその戦略的な情報発信は、見逃すことができなくなってきました。
これに対する日本の現行の対策は徐々に強化されているものの、政府主導の取り組みが中心となっており、海外の事例と比較すると、市民社会や民間セクターの関与が十分では無いことがわかります。
対策をめぐっては、日本とカナダの間には文化的背景や脅威認識、取り組み内容等に差異があるものの、対策においてさまざまなアクターを動員することの重要性と、事例や教訓等の共有や即応メカニズム強化を含む多面的かつ持続可能な国際協力体制を構築することの意義が強調されました。
パネル「カナダと日本の協力を強化する上での障壁と必要なこと」
パネルディスカッションでは、日本とカナダの協力を強化する上での障壁とそれを超えるために必要なことについて話し合われました。
外国からの干渉が無視できなくなった現在、平時からプレバンキング的に国際協力を強化しておくことが重要視されています。そのために必要なこととして、規範(Norms)を構築し、その上で共通の理解を持つことであると、バブー氏は話しました。
さらには、カナダが議長国を務める2025年6月のG7サミットで発出された、国境を越えた抑圧に関するG7首脳声明(G7 Leaders’ Statement on Transnational Represssion)を例にあげながら、国境を越えた抑圧とはいかなる行為かについて定義し、それらをどのように調査していくかを決定することの必要性について述べました。
陣内さんからは、Facing the Oceanと呼ばれる日本・台湾・韓国合同のコミュニティ活動を例に、連携を長期に渡り続けてきたことの成果として、個人レベルでつながっていることで共同で何かに取り組む際もスムーズな連携ができることが挙げられました。
研究者の視点として桒原氏からは、この先進的な領域に対して日本の経験値、研究量、対策が限定的であることから、日本側のカウンターパートとなるアクターが限られてしまっていることが、日加協力時の日本側の抱える課題の一つとして挙げられました。その結果、日本側の議論の中心が、オンラインの情報空間に限られた「偽情報」や「情報戦」など、限られた範囲にとどまりがちであるとの説明がありました。
まとめ
外国による情報操作への対策を比較すると、日本とカナダでは取り組みの歴史や体制に大きな違いがあることがわかりました。
カナダからは、偽情報対策において、政府主導の対応だけではなく、民間セクターや市民社会の主導の取り組みが強化されることの重要性について話されました。日本国内では市民社会による取り組みがまだまだ少ないのが現状です。
偽情報の問題について、外国からの介入が強まる現状においては、国際協力の推進が課題解決のための鍵となります。文化的背景の違いを踏まえつつも、互いの強みを活かした協力関係を構築していくことが求められていることが強調されていました。
この記事を読んで、Code for Japanの偽情報対策に興味をもっていただいた方へ朗報です!11月29日に行われるCode for Japan Summitでは、BirdXplorerの取り組みについてのセッションを予定しています。さらに詳しく知りたいと思った方は、ぜひCode for Japan Summitへご参加ください!

