日本・台湾・韓国のシビックハッカーが集結し、テクノロジーを活用した社会課題解決に取り組むハッカソン、Facing the Oceanが台湾・高雄で開催されました。窓の外には青い海が見える会場で、改めて“市民と政府が一緒につくる未来”に改めて可能性を感じました。
Facing the Ocean(以下FtO)は、2019年より日本・台湾・韓国のコミュニティで順番に持ち回りで各地で開催している合同ハッカソンです。台湾での開催は2020年の台南ぶりで、今回は80名を超える参加者が一堂に会しました。
会場となった高雄は、古い街並みと新しい建造物が混在する港町です。市としてソフトウェア企業の誘致に注力しており、モダンなデザインの建造物が港沿いに建っていたり、倉庫を改装した商業施設では週末には催しが開催されていたりと、その活気を感じます。
シビックテックコミュニティと政府職員との連携
今回のFtOのテーマの一つが「シビックテックコミュニティと政府職員との連携」でした。
各国の官公庁からの参加を募り、3カ国より合計49名の参加がありました。初日の政府参加者向けのセッションでは、トピックの一つとして、「Sovereign AI(主権型AI)」の取り組みについて話されました。
近年、高雄市はNVIDIAなどと連携し、主権型AIの実装に向けた都市レベルの生成AIプラットフォーム構築を進めています。
主権型AI(Sovereign AI)とは、データやAIモデル、計算基盤を外部クラウドに依存せずに地域が自ら保有・運用することで、AI 活用における主導権や自治性を確保しようとする取り組みです。
高雄では、港湾・防災・交通・産業インフラといった都市固有のデータを活用し、行政オペレーションに最適化されたAIモデル(City VLM)を自前のインフラ上で動かす試みが始まっています。これは台湾における最初の「都市型 Sovereign AI」プロジェクトとして報道され、注目を集めています。
その他には、政府職員の業務効率化など行政におけるテクノロジー活用、市民コミュニティとの連携について話されました。シビックテックとの連携においては、台湾では、国民が政府に対して意見を出すことができるプラットフォーム「Join」など、有名なg0vをはじめとする市民団体との連携の事例が紹介されました。
日台韓の比較として印象的だったのが、韓国や日本では、コロナ禍における取り組みがシビックテックコミュニティと政府の連携のターニングポイントになったことです。
韓国ではコロナ禍にシビックテックコミュニティからの要請でAPIが公開され、地図上でのマスクの在庫の可視化が行われたり、日本ではコロナ感染者数のデータダッシュボードがオープンソースで開発され、30を超える自治体に広がったことが事例に挙げられていました。
各国のシビックハッカーが集まるハッカソン
FtOのメインは、ハッカソンです。9カ国から80名以上の参加者が集まり、土、日の約1.5日で様々なプロジェクトが共有され、開発が行われました。個人的に印象的だったのが、台湾の國家海洋研究院(National Academy of Marine Research)が進めるGo Oceanです。
海難事故を防ぐために始まったこのプロジェクトは、気象データの可視化だけではありません。波の高さが1mを超えている時にそれがどのようなリスクがあるのか、サーフィンなどのマリンスポーツのコミュニティと連携してより安全にアクティビティを楽しめるよう、情報を提供するプラットフォームとして紹介されました。
ハッカソンではこのGo Oceanのプロジェクトのメンバーが市民エンジニアとの共創に取り組んでいました。Go Oceanのプロジェクトの一つである海洋ゴミの画像認識による判別の精度を上げるためのAIモデルの教育において、エンジニアの観点から教育用のデータをどのように集めるのが良いのかの議論がされました。
そのほかに、公開しているAPIについてどのような事例で活用されているかが分かるようにしたいという要望があり、適切にクレジットが表示されるよう、Attributionについての議論がされました。
おまけ
英語が得意では無い人も、それぞれが話しやすい言語で話せるように、今回は実験的にAIでの翻訳字幕を用意しました。
発表の言語を気にすることなく母国語で話せることで、英語だと登壇ができなかった当事者から、活動がより具体的に共有されていた印象です。聞いている側からは「各国の言葉で話される内容が通訳によって英語で説明されるよりも、たとえ不完全であっても母国語に翻訳された文字起こしで追える方が気を遣わない」という意見がありました。技術進歩によるコミュニケーションの可能性を感じました。
この翻訳字幕の複数言語の同時表示が可能なこのインタフェースはg0vのコミュニティメンバーにより開発されました。こうした実験的なツールをイベントに合わせて準備してくるg0vはさすがだ、と思います。
まとめ
市民レベルでの国境を超えたコラボレーションだけではなく、今回はシビックテックのネットワークを通じ、各政府の取り組みやその現状についての意見交換される機会となりました。
シビックテックコミュニティのメンバーが他国にも同じ想いで取り組みを進めていることを知り勇気づけられたように、政府と市民の連携についても、各地の事例から学び合うことで連携がさらに増えていくことを期待しています。
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