——自己紹介をお願いします。
川邊悠紀です。CfJでは「りょーまさん」と呼ばれています。ソフトウェアのエンジニアで、フロントエンドとweb3のブロックチェーンのアプリを作ることを得意としています。CfJではメインでweb3の実証実験やR&D(Reserch and Develpomentの略)的な開発をしたり、GovTech系のプロジェクトなどに参加したりしています。
また、入社するまでは大学院に通っていて、パターンランゲージについて研究をしていました。修士課程が終わるタイミングでソーシャルハックデーに参加し、副代表の陣内さんに誘われて今に至ります。
——大学院で研究されていたとのことですが、研究内容と現在の活動に繋がりを感じることはありますか?
学部生の頃から大学院まで同じ領域を研究していて、パターンランゲージというアプローチをベースに創造実践学という新領域を作ろうという研究室にいました。ちょうど修士課程に入った頃にコロナが流行し始め、研究室で取り入れていた付箋などでグルーピングする作業ができなくなくなったことがあったんです。既存ツールではカバーできない部分があったり、パターンランゲージのプロセス上大事だと考えられる部分が抜けていたりするように感じました。それでオンラインでもパターンランゲージや創造性の研究を進めることを可能にするためのグループウェア(共同作業ウェア)を作ることが私の研究テーマとなりました。
大学院でもCfJでも使い手と作り手、専門家が同じ場所にいるという点では共通していると思います。また、振り返って考えてみると大学院のときに抱えていた問題意識や課題意識もCfJに近いと感じています。
——エンジニアでありながら社会学にも興味を持っているんですね。
インタビューをしたり人の話を深掘りしたりするのが好きなんです。ただ、僕の脳みその構造的にはコーディングやプログラムを考えることが得意なので、今はエンジニアとして働いています。コンピューターサイエンスを専門としている人とはモチベーションが異なっているなと修士課程の頃に感じました。
新しいアルゴリズムを生み出すというよりも、既存のライブラリや仕組みを組み合わせてやりたいことを実現していくための手段として用いること、活かすことに重きをおいています。ブロック玩具でパーツを組み合わせて建物をつくっているような感覚に近いかもしれません。
——社会学に興味を持ったきっかけはありますか?
さまざまな人の日常に興味があって、「人はなぜこう考えるんだろう」「なぜこういう行動をするのだろう」ということを考えるのが好きなんですよね。何かしらの象徴的な出来事を経てそうなったというよりは、生きてきた中で自然に醸成されていった僕の性格だと思います。人間の行動をアフォーダンス(affordance:環境のさまざまな要素が人間や動物に影響を与え、感情や動作が生まれる)という概念で理解することができたりしますよね。
例えば、コンビニエンスストアのアイス売り場が程よい高さであるため、人がついついガラスケースの上に荷物を置いてしまい割れてしまう問題などがありました。最近はガラスが割れないようにそもそもアイス売り場の形自体も含めて変わってしまいましたが。こういった人々の行動への影響や行動変容を促す仕組みづくりなどにも興味がありました。
——コーディングやプログラミングはいつ頃から始められたのですか?
小さい頃からパソコンを触ったり、ゲームをやったりしていましたが、エンジニアっぽいことをし始めたのは大学に入学してからでした。高校生のときに一年間海外留学を経験していたので、「日本で他言語を学びたい人とディープなところに行きたい外国人観光客をマッチングするアプリを作りたい」という目標が入学当初にありました。
慶應SFCに入学したらアプリを作れる人が周りにたくさんいるのではと思っていましたが、実際は全体の5〜10%くらいのような印象で、ならば自分でアプリを作ってみようということで1年生の秋ごろから挑戦し始めました。
——先ほど自己紹介でソーシャルハックデーに参加したことが入社に繋がったというお話がありましたが、参加し始めたきっかけはありますか?
きっかけは正直なところ「暇つぶし」でした。大学院卒業後もそのままフリーランスで働こうと考えていたので、修論を書き終えてから卒業までかなり時間に余裕があったので参加してみました。知ったきっかけは話した通り、修論のレビュー時に友達からCfJも似たことやっているねと言われたことです。
——そうだったんですね。コントリビューターで初めて参加したプロジェクトはなんだったんですか?
関さん(CfJ代表)が進めていたHackdaysです。そのときはweb3は全く関係なく、シビックテックコミュニティのものづくりの場であるソーシャルハックデーをより良い場にアップデートしていこうという取り組みに技術的な側面から取り組んでいました。
——アプリを作っていたところからオープンソースソフトウェア(以下OSS)やweb3にたどり着いた経緯を教えてください。
OSSもweb3も概念や技術についてはもちろん知っていたけれど、自分にはまだ遠いような感覚を持っていたところから参加し始めました。
自分にとっては真新しいことだったので、新鮮さもあって面白いなと取り組み始め、続けていくうちに自分に合っていると感じつつ、より楽しくなっていき沼にハマっていった感じです。加えて、フリーランスで請負の仕事中心でやっていたところから、自律的に仲間とつくっていく開発スタイルへの切り替えが僕にとっては魅力的でやりやすかったというのもあります。OSSの開発は企業でいつものメンバーとチームを組んで開発するのと、フリーランスとして傭兵的にその場その場で違うメンバーと仕事をするののちょうど中間のような感じがしています。
——シビックテックやOSSで得た高揚感やどこに共感しましたか?
コミュニティの拡大に伴って、関わる人がどんどん入れ替わっていくというのが、シビックテックやOSS開発の特徴にあります。色々な人の技術スキルやチームワークに対する考え方、価値観などを相互作用させ合いながら一緒に作るという工程に楽しさを感じています。同じ考えを持っているメンバーやいつも決まった固定メンバーで作るのは、仕事としては楽でやりやすさがありますが、風通しや新鮮さが欠けてしまうところがあります。面白いものをつくったり、開発そのものが面白くなったりするには、多様な人でやることが必要だと信じているし、僕自身がそれを現在進行形で実感しています。色々な人とやるのはやっぱり楽しいです。
——現在携わっているプロジェクトについても教えてください。
主に関わっているのは4つです。
まず、1つ目がToyooka Smart Communityという豊岡市と民間企業と市民が協同しながら技術を用いて持続可能な地域をつくる実験的なプロジェクトです。このプロジェクトでは、子育て世代が困っていることを移動の側面から解決していくことにフォーカスしてアプリケーションのプロトタイプとコミュニティをつくっています。シビックテックとガブテックが半々というような立ち位置です。2つ目が、web3の技術をつかった気候変動対策のための仕組みと、「じぶんごとプラネット」という気候変動に関するデータの可視化のプロジェクト。3つ目が偽情報についてのプロジェクトで、最後はMintRallyと呼ばれるプロジェクトです。
ここでは、この4つの中から2つに絞ってお話したいと思います。
まず偽情報についてですが、こちらはディスインフォとも呼ばれ、悪意があって情報拡散しているものを指しています。例えば、対立の強まっている国や地域の間では海外から偽情報が毎日入ってくることもあり、偽情報に関連する技術を高めながら、それらに対策・対処しています。一方で、日本は外国製のツールを使用しているため、国防の問題になった場合にはリスクが高いなどの課題があります。CfJとしては、シビックテックなアプローチでデータを集められるかを主眼としていて、プロダクトを作る上で最初から大きく作らないように意識しています。また、このプロジェクトにはコントリビューターとして活躍されていた方もいらっしゃって、データ分析が得意な方が開発を進めている間に事前にコミュニティーノートからどんなデータ構造になっているのかだったり、このデータを何に応用できるかデータ分析してくれていたり、先回りしながら自発的にやってくださっていたことがとても役立ちました。台湾のg0vでディスインフォのチームで活躍されている方々や研究室の人と対話するなど、色々な人と連携しながら日々プロジェクトを進めています。
次にMintRallyについてですが、これはイベントや活動のなかで簡単にNFTを発行できるサービスです。このプロジェクトに参画したきっかけは、「ソーシャルハックデーのプロジェクトの進捗が見えやすいようなウェブサイトを作りたい」「web3でオープンソースへの可視化をしたい」という思いからでした。ウェブサイトからweb3にした背景としては、エンジニアであればGitHubで何に貢献したかを見られるけれど、文章書く人やデザイナーやプロジェクトを回していく人やボランタリーでやっている人などシビックテックに関わっている人の実績を積み上げていきたいという議論がなされていたことです。オープンソースやシビックテックへの貢献度合いを可視化することとweb3の相性が良かったという文脈だったかと思います。また、web3への個人の価値観としては、長く続けることが大切だと思っています。去年1年間で仮想通貨の価値は急激に下がりましたが、最近急に上がっていて、浮き沈みが激しい技術であると言えます。早期に撤退してしまっては、自分のためにもCfJのためにも知見がたまっていきません。そういう技術領域においては、長くいることが大切であると考えています。
——MintRallyにはコントリビューターの方もいらっしゃるそうですね。過去にりょーまさんもコントリビューターの経験があるとのことですが、お勧めできるポイントはありますか?
すでに動いているプロジェクトに今日から参加できることですね。CfJでは自分から手を挙げて新規のプロジェクトを立ちあげることもできますし、活動中のプロジェクトに途中から参加することもできます。手で触れる道具があって、今まで参加したことがない人もいきなり飛び込める場所があることは、技術の学習としてはとても良い環境だと思います。ぜひ学びの場として使ってください。また、学生の方であればキャリアを作る上で実績を積める場所として活用してみてください。
自分がコントリビューターとして2,3カ月参加していた当時を振り返ると、普段しゃべらない人と出会えて話せる貴重な場だったと感じます。作るものが真ん中に置かれていて、今まで出会ったことのない人や開発スタイルの人と関われます。異業種ネットワーキング会ではないところが良いところですね。
——別の仕事もされているとのことですが、どのようにバランスを取っているのでしょうか?
SenspaceというスタートアップでCTOをしています。毎日大変なのですが、忙しい中でもなぜCfJを掛け持ちし続けているかというと、CfJの立ち位置が社会的に色々な情報が入ってくる場所であることが大きいです。CfJは「社会のため」になるかを軸に動いている組織で、創業から10年たった今ではありがたいことに社会からも認知されてきています。そのため、色々な企業が参加するコンソーシアムでは、多種多様な業界で活躍されている方や学術的な人が集まることがあり、世の中を俯瞰的に見ることができます。こういったメリットもありますが、単純にCfJのやっていることがかっこいいと思っています。単にお金を稼ぐだけではなく、社会のためにやっているからこそ余分に時間を使ってでも働きたいですね。
——どんなキャリアを積んでいきたいと考えていますか?
職種としての「エンジニア」は卒業していきたいと考えています。エンジニアとしての経験や視点を活かしながら、何か問題や課題が起きたときに一緒に作ってきた仲間たちと方法を模索し、解決できるような人になっていくことが今後の目標です。
——これからCfJやシビックテックに関わりたいと思っている人へのメッセージをお願いします。
若いエンジニアこそシビックテックに入ってほしいというか、「なんで入らないの?Why not?(入ろうよ!)」という感じです。