市民主体のアプリ開発プロジェクト「Toyooka iDO」の舞台裏に迫る

2024.05.21 | 活動レポート

豊岡市役所と一般財団法人トヨタ・モビリティ基金が共同で設立した豊岡スマートコミュニティ推進機構(以下、TSC)は、子育てをはじめとする豊岡での暮らしに役立つ情報を市民みんなで集め、共有できるアプリ「Toyooka iDO」(トヨオカ アイドゥ、以下iDO)の提供を開始しました。Code for JapanはTSC設立初期の頃から、技術的な支援を行ってきています。
iDOは、2023年3月に開催された「豊岡市・地方都市の暮らしハッカソン」での議論をきっかけに生まれたアイデアを形にしたものです。市内外のエンジニアやデザイナー、市民の方々の力を借りながら、TSCが中心となって開発を進めてきました。
この実現までには、様々な苦労や紆余曲折があったといいます。プロジェクトをけん引した地域おこし協力隊のメンバーの奮闘ぶりや、地域の皆さんとの対話を重ねてアプリを磨き上げていったプロセスなど、その舞台裏を探るべく、iDO開発に携わったTSCメンバーである豊岡市役所職員の小谷さん、地域おこし協力隊の加藤さん、Code for Japanエンジニアのりょーまさんにインタビューしました。
(聞き手:Code for Japan 砂川)
 
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ハッカソンが生んだ化学反応

──TSCが取り組んでいる市民のためのデータ活用プロジェクトについて教えていただけますか。
小谷:TSCでは2020年から、防災や観光など様々な分野でデータやデジタル技術を使った取り組みを進めてきたんです。コロナ禍で人流データの重要性が再認識される中で、私たちの生活に直結したデータをどう活かせるか、ずっと考えていました。その流れで、災害時の情報を一元的に見られるプラットフォームのアイデアが生まれ、2023年3月のハッカソンでは、「移動の困りごとの見える化」をテーマに、みんなでアイデアを出し合ったんですよね。
──なるほど。ハッカソンに参加してみて、どんな手応えを感じましたか?
小谷:普段は接点のないエンジニアやデザイナーの方々と、地域課題について深く語り合えたのは、とても刺激的な経験になりました。役所の人間としてだけでなく、一市民としての思いも共有できる。そんなオープンな場のあり方に、可能性を感じましたね。
加藤:参加者のみなさんのアイデアの豊かさと行動力の高さには、本当に驚かされっぱなしでした。それぞれの得意分野を活かしながらも、フラットな立場で意見を交わし合う。日頃の仕事では味わえない、濃密な時間を過ごせました。たった3日間であれだけのアウトプットが生み出せるんだと、私自身すごく感銘を受けましたね。
りょーま:僕らエンジニアって、普段参加するハッカソンは単純につくってみたいという思いベースで生まれるアイディアを形にするんですが、今回のハッカソンでは、自分たちで地域の困りごとを捉え直して、そもそもどんなシステムが求められているかを議論するところからスタートした。エンジニアとしてのやりがいを感じるとともに、地域課題の本質に迫れた手応えがありましたね。
 
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写真:2023年に実施した豊岡ハッカソンの風景(豊岡ハッカソンのイベントレポート:https://www.toyooka-smart-community.org/post/hackathon_report

地域の声を反映させるリサーチの重要性

──なるほど。ハッカソンを終えて、その後はどんな展開があったんでしょうか。
小谷:ハッカソンの熱量を引き継いで、TSCの中でiDOの開発を進めていくことになったんです。私と加藤さんは、チームをリードする立場として、ワクワクしながらもどうやって進めていけばいいのか不安な思いが大きかったです。まずは一緒に使ってくれる人たちのことを知るところから始めようと、ユーザーリサーチを重ねました。一方で、庁内や関係団体に丁寧に想いを伝えていくことも大切に。「小さく産んで大きく育てる」をモットーに、仲間を増やしながら一つひとつ課題をクリアしていったんです。
──なるほど。一方で、地域の課題を可視化する実証実験もされていたとか。
加藤:はい。私と小谷さんが主催している「シン稽古堂塾」というシビックテックコミュニティで、身近な地域資源を題材にしたマッピングイベントを企画したんです。「飛び出し坊や」や「お地蔵様」、「柿の木」など普段はあまり意識されないものにスポットを当てて、その魅力や課題を探る。そんな遊び心を込めたんですよ。単にデータを集めるんじゃなくて、マッピングを通して地域の方々と膝を交えて話せる。そこに大きな意味があると考えました。
小谷:中でも印象深かったのが、「柿の木マッピング」ですね。私の実家で管理が行き届かなくなってしまった柿の木を泣く泣く切ることになったんです。私自身、祖父との思い出も多かった柿の木でしたからショックでした。一方で柿を楽しみながら地域の人たちと一緒に収穫するとか、柿の実を子どものおやつにしたい、加工品として活用したいなど欲しい人もいるので、管理できないから切るのではなく、みんなで利用し、管理する新しい仕組みも必要だと思いました。そんな背景もあり昨年の11月に柿の木のマッピングイベントを開催したところ当日は、親子連れからITエンジニアまでいろんな方が集まってくださって、柿の木の分布を分析したりや、柿がクマの誘引物になっていてそれをデジタルでどう活用できるかなど収集したデータの活用について語り合うことができました。
──そうした気づきを、どのように活かされているんですか?
加藤:まずは集まったデータを共有して、地域課題の解決につなげるアイデアをみんなで模索しているという感じですかね。
小谷:今年の3月には、「チャレンジオープンガバナンス」という東京大学公共政策大学院が関係しているプログラムに柿の木マッピングの成果として「収穫されずに残っている柿とそれを欲しいと思っている人たちをつなげる地域のプラットフォーム 『Botta!』」というサービス案を応募したのですが、なんと総合賞(最優秀賞)に選んでいただいて。
加藤:僕のプレゼンで勝ち取った感じですよね。
小谷:そうですね、そうかもしれません。総合賞の受賞は嬉しいですし、マッピングを通じた地域との対話はデータに基づいた政策立案や市民とつくるオープンデータなど役所の業務にも繋がる話なので、庁内でも広めていきたいと思っています。

情報設計にみる利用者目線の大切さ

──なるほど。そうした中で開発されたiDOですが、特にどんな点に力を入れたんでしょうか。
小谷:TSCとして開発を進める以上、ぜひ多くの市民の方に使っていただきたいという思いがあったんです。その中で、子育て世代のニーズの高さと、行政の子育て支援の方針とがピタッと合ったんですよね。アプリを通して、子育てに役立つ情報をまとめて発信できれば、移住定住の後押しにもなる。そんなビジョンを関係者と共有しながら、使いやすさを追求していったんです。
加藤:利用者目線に立つと、本当に知りたい情報ってどんなものなのか。TSCの人間だけで考えるんじゃなくて、実際に子育て中の私や妻の実感も交えて提案してみました。例えば、子連れで気軽に立ち寄れるカフェや、急な預かり保育に対応してくれる施設など、口コミならではの情報の価値は意外と大きいんです。アプリなら、リアルタイムに共有できるんじゃないかって思ったんですよね。
りょーま:開発のベースにはオープンソースのデータ連携基盤「FIWARE」を使ってみようということは決めていたので、その上でiDOに必要な機能をどう実現するかを考えていきました。例えば、利用者が画像を投稿できる機能が欲しいとなったら、FIWAREのどのコンポーネントを使えばいいかを検討したり。あとは、自治体の方でもシステムを管理しやすくするために、データ投入用のダッシュボードUIの開発なんかにも力を入れました。将来は、エンジニアがいなくても職員の方が簡単な修正くらいはできるようにしたくて、ノーコードツールの導入も進めています。利用者向けのアプリと、運用を支える基盤の両面で、使い勝手のいいシステムを目指して開発を進めてきました。市民の力でアプリを育てていく上でも、持続可能な運用体制を整えることが大切だと実感しています。
 
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写真:iDOのユーザーリサーチ

アプリ公開後の手応えと見えてきた課題

──アプリの公開から手応えと、見えてきた課題を教えてください。
加藤:iDOは、子育て世代を中心に喜んでもらえています。情報を投稿してくれる市民の方も少しずつ増えてきましたね。でも、公開直後に比べるとアクセス数の伸びはやっぱり鈍くなってきているんです。いかに利用者の関心を保ち続け、参加し続けてもらうか。もっと一緒に盛り上げていく工夫が必要だなと感じています。オフラインのイベントともうまく連動させながら、みんなで育てていけたら。そんな思いを新たにしているところです。
小谷:行政の視点だと、正確な情報発信を心がけるあまり、どうしても細かい指摘が多くなってしまいます。でも利用者の方からは、「豊岡市の情報だけにこだわらず、もっと気軽に色々な情報をやりとりできると嬉しい」といった声もあるんですよね。しっかりと公共性は守りつつ、民間のスピード感も取り入れられるようなオープンなガバナンスのあり方。そこが問われているのかなと感じています。アプリ運営を通して、行政と市民の関係性そのものを見つめ直すきっかけになればと思っています。
りょーま:最初はどうしても、いかに早くリリースするかってことに目が向きがちだったんですけど、本当に大事なのはこれからなんだと感じます。利用者の声に耳を傾けて、ひとつずつ改善を重ねたり、データを充実させていくことで少しずつ使いやすくなっていきます。利用者が減ったからってやめることを考えるんじゃなくて、コツコツと続けること。そこにこそ価値があるんだって、最近つくづく実感するんです。行政職員や市民の方々と一緒になってより使いやすいサービスになるように、iDOを育てていきたいですね。また、それを支えるコミュニティもサポートしていきたいと思います。
 
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iDOを通じて実現したい、これからの地域の姿

──これからの展望について、最後に一言ずついただけますか。
加藤:これからの目標は、もっと幅広い層の市民の皆さんにiDOを使ってもらうこと。特に子育て世代と、地域の頼れる先輩方とをつなぐ架け橋になれたらいいなって。世代や立場の違いを超えて協力し合える。そんな基盤としてアプリを育てていければって思っています。
りょーま:今はまだ、iDOの管理運用は、加藤さんを中心にボランタリーな形で続けられていますが、本来はそれだけで生計が立てられるような"仕事"になるべきだと思うんです。これって、デジタル公共財をみんなでメンテナンスしていく作業なわけですが、それを支える制度や文化が日本にはまだ根付いていない。その課題解決に、地域の皆さんと一緒に向き合っていくことが大切だと考えています。アプリの管理を誰かの仕事の一部にできるような仕組みを作ることで、より継続的な運用が可能になる。そこに行政としても予算をつけていく。そういう形でプロジェクトを支えていければ、もっと息の長い取り組みになるんじゃないかな。
小谷:iDOの開発プロセスを振り返ると、これまで市役所が進めてきた業務のやり方とは全く違うアプローチだったなと実感しています。行政サービスを考える際、これまでは職員だけで企画を練ることが常でした。でも今回は、市民の皆さんから必要とされているものを直接聞いて、それを形にしていく。そこに行政が一緒に関わらせてもらう。従来の行政と市民の関係性を超えた、新しい協働の形だと思うんです。iDOを通して得た気づきを、これからは市役所の様々な事業にも広げていけたら。職員の意識改革を促すきっかけにもなると信じています。
── 本日は貴重なお話をありがとうございました。
 
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写真:左上から時計回りに、加藤氏、りょーま氏、小谷氏、砂川(前のめり)
 

iDOは豊岡市の子育て支援アプリとしてスタートしましたが、豊岡スマートコミュニティ推進機構では、より広範な地域課題解決ツールとしての可能性を見据えているそうです。市民協働で収集した生活情報は行政データとは異なる価値を持つため、今後は防災、観光、福祉など他分野への展開も視野に入れており、地域の多様な主体が協力して地域課題に取り組むシビックテックの先進事例として期待されます。TSCではiDOの取り組みを他地域にも広げていくことを目指しており、関心を持っていただける他の自治体や市民団体の方々と情報共有できることを楽しみにしているとのことです。
 
Toyooka iDOのリンク: https://toyooka.adalo.com/ido
 

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