自治体の中で働く外部人材、フェローの仕事の魅力に迫る

2018.01.21 | 活動レポート

民間人材を行政機関に派遣する「フェローシッププログラム」では、福島県浪江町や兵庫県神戸市などに民間人材を派遣し、自治体だけでは難しいIT活用や企画作りを行ってきました。自治体と自治体と共創関係を作りながら、よりよい仕組み作りをサポートしています。派遣されたフェローは自治体の職員として数年間フルタイムで働き、Code for Japan と共に課題解決を行なっていきます。この度、関西の某大手自治体にて、次期フェローを募集しております。
しかし、「実際どのようなことをするのか、どんな人が必要なのかがよくわからない」という不安も多くいただきました。そこで、昨年 Code for Japan から神戸市にフェローとして派遣され、ICT業務改革専門官として市役所に勤務している、砂川洋輝さんにインタビューを行いました。今回募集の業務内容とは違いますが、フェローの実際について理解が進むのではないかと思います。
インタビューは、職場のオープンスペースで行われました。聞き手は Code for Japan の関です。
フェローの砂川さん。
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ハードウェアエンジニア→フィンランド→神戸市職員

― 砂川さんはどうしてフェローに参加したのですか?
元々はパナソニックの半導体部門や、航空機内エンターテイメント部門でハードウェアエンジニアとして働いていました。入社から数年が経って、機内エンターテイメント部門では徐々にプロジェクトリーダー的なことも任され始めて楽しくはあったんですけど、扱っているのはどちらかと言えばレガシーな技術が多くて、もっと新しいことをやりたかった自分の中で色々とモヤモヤが溜まってきたんです。プロジェクト自体は利益率も高い方だったんですが、本当に使う人の為を考えたら、別のソリューションが色々とでてきている状況だった。会社の為の仕事とお客さんのニーズとの乖離を感じたのと、もっと技術をうまく使うことに強い興味があったので、もともともともと独学で学んでいたデザインを学ぶために、フィンランドのアールト大学に留学しサービスデザインの勉強をすることにしました。アールト大学で在籍していたInternational Design Business Management (IDBM)というプログラムは、デザイン、テクノロジー、ビジネスという異なるバックグラウンドの学生が集められています。IDBMは、多様性のある学生チームとクライアント企業がタッグを組んで、現場の課題解決を実際に行うプロジェクト型の授業が有名です。私のチームのクライアントはヘルシンキ市で、市が抱える市民サービスのUXを改善するのがミッションでした。私のチームは、ヘルシンキ市の課題を解決するのがミッションでした。1年目では理論を学びつつ、ヘルシンキ市の課題をサービスデザインの視点から解決するプロジェクトに携わり、2年目はせっかく人生で何でもチャレンジできるタイミングなのだからと、学位をとることよりも友人と始めたスタートアップを優先していました。そちらのスタートアップのプロダクトがいわゆるIoTだったので、そこでICT技術を必死で学びましたが、残念なことに資金繰りがうまくいかずクローズしてしまいました。その後、もともと2年間で帰国するということを妻と約束していたので、帰国の準備を進めていた時に、日本に帰ろうと思った時に、フェロー募集についての書き込みがフェイスブックに流れてきたんですね。私は出身が神戸ですし、いつかは神戸で働きたいと思っていたので、これは何かのタイミングでは!と思って、応募してみました。
― 今やっているのはどんな業務ですか?
3つありまして、1つ目は働き方改革の庁内広報です。働き方改革と言っても、職員の大半は直に動けるわけではないので、「そもそも何をするの?」「なんでするの?」「何が楽しいの?」といった職員目線のメッセージをどう伝えるか、どう見せていくかを、別の部署にいるクリエイティブディレクターと考えながらクスッと笑えるポスターの作成や、読みたいと思える庁内ブログ、新しい働き方を体験するワークショップなどを行なっています。トップからの押し付けではない啓蒙活動になるよう気を使っています。2つ目は、役所の業務に対するテクノロジー導入です。世間一般の技術を役所の中でも使えるように、色々な調整をしています。例えば、パブリッククラウドやASPサービスなどといった仕組みは、実は今の自治体の業務の中では利用できません。本当にクローズドにすべき業務を切り分けたり、調達の仕組みや、情報管理規程など様々なレガシーなルールの見直しをチーム一丸となって行なっています。また、どのような仕組みをどのような順番で入れていくかのロードマップを作ったりもしています。3つ目は.案件ベースで具体的なソリューションの提案をしています。ホームページの見栄えを良くするといったことから、市民からの問い合わせを減らす、問い合わせ対応の際にストレスの無いコミュニケーションをデザインする、手入力を減らすためにOCRや音声認識を試す、といったこともやっていますし、働きやすいオフィスレイアウトを職員と一緒に作っていく取り組みなども行なっています。

一貫性と、手を動かすことを通じて信頼を育てる

― そろそろ、市で働き始めてから6ヶ月くらいですが、何か手応えはありますか?
とにかく試行錯誤の連続でしたが、やっと、自分がやるべきことが整理でき始めたという感じです。何をできるか、何をすべきかが少しづつわかってきて、これをやりきれば何かが変わるという確信がでてきました。自治体の方は、外の人が来てツールを導入したり、色々進めていってくれるという期待があったかもしれないですが、それでは持続的なボトムアップの取り組みにはならない。主役は一人一人の職員の方々なので、いきなりツールを導入するとかではなく、ちょっとずつ皆の意識を変えて巻き込んでいくということをやってきました。
― 自分ごとにして貰うのは、とても難しいと思います。どうやってやっているのですか?
ボトムアップでの取り組みも大事なんですけど、それだけでは息切れしてしまいますよね。やはりトップ層の方々にも、働き方改革のサポートだけではなく、目に見える形でご自身の仕事のやり方を変えていただく必要があるだろうなと思います。例えば、市長は以前はかなり遅くまで働く人だったのですが、働き方改革を自ら実践するということで、ほぼ定時で仕事を切り上げるようになり、関連する職員の方々も早めに帰りやすくなったようです。会議のやり方を変えるなど、本気で変えることをトップが実践することでコミュニケーションが変わるようなターニングポイントを一つづつやっていくことが重要だと思っています。トップとボトムが変わることで、ミドル層も変わっていくんだろうと思います。将来的には現場の担当の方々が担当が新しいことをやりたいと思ったら、すぐに試して検証ができる状況にしていきたいですね。今は何か新しいことにチャレンジしようとしても、様々な制約によって実現できないことがほとんどですから。また、目新しいことをやるには、まずは信頼関係を作ることが大事だと思っています。圧倒的な実績があれば別ですが。
― 信頼関係。フェローにとって一番大事なことのように思います。信頼関係を作るために気をつけていることはありますか?
自分がやりたいことに関してちゃんとロジックを組み立てて、その上でそれを自分が率先してやるように心がけています。そうでないと人は絶対に動かない。職員はただでさえ忙しいので、口だけ綺麗事を言っていてもは共感はしてもらえません。喋ることが一貫していることも重要です。また、プロトタイプを自分で作るのも有効でした。例えば、役所で使っているCMS(ホームページ作成システム)があまりにデザインの自由度が低かったので、一般的なデザイン原則に則ったユーザーインターフェースにアレンジして見せたところ、「こんなのできるんだ!」と感動してもらえました。他にも、入力作業を省力化するためにGoogleの音声入力のデモをしたりと、まず見せることができるのが、Code for Japan やフェローの強みだと思います。
― 慣れない環境の中で、大変なことや、つらいこともあると思うのですが
自分がやっていることが、本当に皆に喜んでもらえるのか?これは自分のエゴではないのか?という不安を感じるときがあります。自分は正しいと思っているんですが、反応を見てみると「あれっ」と思うような時がある。それを解決する為に、皆で共有できる共通の価値観、理念を作りませんか?という提案を今度市長する予定です。ただ額に入れて飾っておくような理念ではなく、判断基準として使われる価値観。運用方法も含めて提案する予定です。みんなには、上長と喧嘩するときに使って欲しいですね(笑)。ー政府の電子行政委員会が、最近サービスデザインの原則を打ち出しました。砂川さんはフィンランドでサービスデザインを学んできましたが、サービスデザインを市役所の中で進める為の課題って何だと思いますか?細分化された組織の構造が邪魔していると思います。海外、例えばヘルシンキ市もそれが課題でした。それをこれからどう変えていくか、ということが私のチームでもやっていたことです。一方、エストニアは全てが基幹システムにプロセス化されているところが大きくて、自然とワンストップな仕組みになり、結果として使いやすいという状況になっていました。日本はエストニアとは状況は違うので、まずはオンライン化のプロセスをしっかりやることが重要だなと思っています。また、デザイン的な考え方を受け入れるための土壌ができていないことも課題です。無理に「デザイン」という言葉を使うよりも、実際に便利なデザインツールを体験してもらう方が良いかもしれません。例えば、近未来の区役所のあり方を考えるという案件で、カスタマージャーニーマップを作って課長に持っていったら、これはわかりやすいと評判になりました。「デザイン思考」などというと抽象的ですが、ツール毎に具体的な研修をしていくのも良い方法ではとも思っています。

職員と手を動かす、しがらみの無い存在

― フェローの仕事で良かったことってなんですか?
提案したことが多くの場合でOKと言ってもらえる事ですね。通常の職員に比べ、フェローは裁量が大きい仕事が多いです。パナソニックで働いているときは、決められた仕事の範囲を超えることは滅多になかったのですが、ここでは自分が必要だと思えば「そんなことまでやるの?」というチャレンジもできます。
― 市役所の人達にとって、フェローってどういう効果を出していると思います?
自分たちの中で、「ちょっと変だな」と思うことを指摘してもらえる、しがらみの無い存在なのが良いのかと思います。そういった代弁者的な側面に加え、手を動かして作れるというところがやはり大きいですね。外部コンサルのような人が入ってきてもなかなかうまくいかないのは、実装まではしないから。「あの人の言ってることは綺麗事だけだね」となってしまいます。それに対し、フェローは職員と一緒に手も動かします。これは信頼を獲得する上でも重要な点だと思っています。
― どういう人がフェローに向いているでしょうか。
淡々とやれる人、良い意味であまり人に期待しすぎない人ですね。当然うまく行かないことも多いので、感情の起伏がありすぎるとつらいかもしれません。自分のアイデアを実装することで人に喜んでもらいたい人にも向いていると思います。実際、自治体の中には機会がたくさんあります。改善できることが山のようにあり、最適化マニアにはたまらないと思います。また、向いていないのは、指示待ちをしてしまう人ですね。人から指示されなくても仕事ができる人でないと、結局何も出来ないと思います。あと、色んな種類の人と話をして、巻き込んでいける人は強いです。市役所はとにかく多様な人がいて、力学も複雑です。エンジニアの世界は楽だったなと、今では思います。(笑)
― 最後に一言、次期フェロー候補に伝えたいことがあれば教えてください。
自治体で働くって、社会貢献みたいなことだけじゃなく、普通に面白いですよ!(笑)ぜひ一緒に働きましょう!
― ありがとうございました。(笑)
(インタビュー終わり)
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いかがだったでしょうか。砂川さんは、インタビューにもある通り、神戸市で働き方改革のプロジェクトを着実にすすめてきています。
砂川さんは、職 員 の 数 だ け 、働 き 方 改 革という記事を昨年書いて、多くの市職員の共感を得ましたが、まさに、現場で働く人の視点を大事にプロジェクトを進めている点が印象的です。もちろん色々な壁に阻まれるのですが、くさらずに淡々とひとつづつ障壁を超えていくキャラクターで、信頼を獲得してきました。
今、Code for Japan では、砂川さんのような、市役所の中で働く外部人材を募集しております。
興味を持った方は是非ご参加いただけましたら幸いです。

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